ある日の夕方、国道3号線に沿って熊本県を南下していると、八代市あたり
の山道でついにタイヤがパンクしてしまいました。出発からここまで持ち堪 えたタイヤは、表面の凸凹が無くなり、ペラペラに薄くなっていました。 近くにあった商店の駐車場へ自転車を停め、荷物を広げてタイヤと格闘して いると、そこへ買い物へ来ていた小柄なおっちゃんが話しかけてきました。 「そんな道具じゃあ回らんだろ」 確かに、有り合わせの工具ではネジ1本回すのにも手こずっていました。 「うしろ載せなよ。ウチはここからすぐだから」 おっちゃんは乗ってきた軽トラを指しました。私は荷台に自転車と荷物を載 せて、助手席に乗り込みました。 『助かります』 とお礼を言うと、おっちゃんは軽く両目を閉じて 「迷惑です」 と言い、車を発進させました。 農道をたどった先にある家に着くと、おっちゃんは大きな工具箱持って来て、 当然のように修理を手伝ってくれました。後輪を外し、応急処置として チューブを換え、空気を詰めた頃には、既に辺りは暗くなっていました。 「どうせ野宿するなら泊まっていきな」 と、おっちゃん。奥さんもにっこり笑って迎えてくれ 「散らかってますけど、お風呂でも入ってゆっくり寝て下さい」 と言いました。感謝しつつお言葉に甘えることにしました。 焼酎を酌み交わしながら、おっちゃんと色々な話をしました。おっちゃんは 「俺みたいな人間は田舎でも少なくなってきているんだ」 と言っていました。『自己責任』をキーワードに多くの事件が他人事として 忘れ去られていく中で、すぐ近くにいる人にまで「他人は他人」としてしまう 風潮があります。おっちゃんはそれを嘆いていました。 「田舎を通る時には、そこにどんな人がいて何をしているのか、気楽に 話しかけてみて欲しい。ただ通り過ぎるだけじゃ意味が無いだろう」 と、諭してくれました。 |
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