旅の最中のよい香りindex


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┃   旅の最中のよい香り Vol.040
│     2006/03/10 http://www.i-yan.com/
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 ○私は今ここにいます : タイ王国 バンコク市

サワッディーカップ、いいやんです。
ここ2ヶ月間の旅のルートを振り返ってみたいと思います。

バンコク〜オーストラリアの往復航空券を利用して、復路に経由するインドネ
シアで途中下車をして数箇所の都市をまわり、バンコクへと戻りました。

 1月15日 飛行機  バンコク ───→ ブリスベン(オーストラリア)
 1月23日 バス   ブリスベン ───→ シドニー(オーストラリア)
 2月5日 飛行機  シドニー ───→ バリ島(インドネシア)
 2月23日 いろいろ バリ島 ───→ ジョグジャカルタ(インドネシア)
 2月28日 列車   ジョグジャカルタ ───→ ジャカルタ(インドネシア)
 3月7日 飛行機  ジャカルタ ───→ バンコク


──今号のもくじ──

  ■ごはんに出会う陸路 バリ島クタ → ジャワ島ジョグジャカルタ 後編
  ◆連載:今週のボイレコ
  ■幸せそうに見える人々
  ◆[New!]連載:今月のカレンダー

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□ごはんに出会う陸路 バリ島クタ → ジャワ島ジョグジャカルタ 後編

※通貨レート参考 1000ルピア≒13円


「スラバヤー!スラバヤー!」

駅員が大声を上げながら通路を早足で駆けて行きます。早朝4時、列車は終着
駅のスラバヤに到着しました。私が始発駅のバニュワンギで買ったスラバヤま
でのチケットは40000ルピア。スラバヤからジョグジャまでのチケットは60000ルピア
でした。ここからジョグジャ行きの列車は3時間後に発車する予定です。

駅の外はまだ暗く、線路沿い屋台街にはところどころ灯りが点っています。少
し賑わうその1軒のカウンターを覗き込み、何か食べ物を注文しようと試みる
と、女将さんは私を物珍しそうに見ながら応えました。

「……ティダーダ。ケッタン?……ケッタン、コピー、ヤ?」

しばらく待つと、初めて名を聞くケッタンという食べ物とホットコーヒーが出
てきました。私はボウルのお湯で指先を洗い、ケッタンの一部を手でつまみ口
へと運びました。きな粉とココナッツの風味に米の味。それは淡く粘っこく、
小さなグラスのコーヒーと合わせるのは明らかにミスチョイスでした。コーヒー
は一杯2000ルピア。ケッタンは一皿…なんと1000ルピア。

 ▽屋台で食べた『ケッタン』
 http://www.i-yan.com/travel/vol40/bali-jawa7.html

 ◇◇◇

スラバヤ駅へと戻る頃には徐々にあたりは明るくなって行きました。ホームに
並んだ食堂や売店が開店しはじめ、列車の本数が増すと共に、駅を行き交う人
の数と賑やかさも増していきます。赤や白の布をすっぽり被ったムスリムの女
性が目に新鮮で、思わず見入ってしまいます。

 ▽スラバヤ駅 朝の風景
 http://www.i-yan.com/travel/vol40/bali-jawa8.html


7時半の定刻通りに出発したジョグジャ行きの列車に乗り、一安心して一眠り。
目を覚ますと時刻はちょうど9時で、鉄道職員が車内販売をしているところで
した。職員は調理済みの食事の乗ったトレイを片手に、まるでウェイターのよ
うなスタイルで車内を歩きます。

「ナシゴレンー、ナシゴレンー……ナシゴレンー、ナシゴレンー……」
「バークソー、バークソー……バークソー、バークソー……」

通路を挟んだところの女性が買った揚げパンのようなものが気になり、職員を
呼び止めて同じものを購入しました。3000ルピア。ムニッとコシのある揚げた
生地の中には、スパイスの香りのするほくほくの根菜煮込みが入っています。
添えられた生のネギと青唐辛子を交互にかじりながらいただきます。

 ▽車内販売で食べた『ロンヤパサ』
 http://www.i-yan.com/travel/vol40/bali-jawa9.html


 ◇◇◇

列車はいくつもの町を通り過ぎ、町と町との間には田園風景が広がります。線
路脇ギリギリから地平線の彼方まで、全て人の手で植えられた稲が青々と続き
ます。途中の駅に停車すると物売りが乗り込んで来ました。

「ナシパチャ〜ル〜。ナシパチャ〜ル〜」

どこかで聞いた料理名だと思いました。確かバリ島で屋台をしていたジャワ島
出身の一家に聞いた料理です。手を上げて物売りを止めてバナナの葉の包みを
買いました。一包2000ルピア。

 ▽物売りから買った『ナシパチャール』
 http://www.i-yan.com/travel/vol40/bali-jawa10.html

包みの中にはご飯と何種類ものおかず、それからタレとスプーンまで入ってい
ました。ピーナツ風味の辛いタレを米にかけて、ふにゃふにゃとコシの無いス
プーンでおかずを混ぜながらいただきます。


 ◇◇◇

12時半、列車はついにジョグジャカルタ駅へと到着しました。バリ島のクタを
出発してから24時間。バスと船と列車に乗り、色んな人と色んな食べ物に出会
えた楽しい道のりでした。今はただ、ゴロンとベッドに横になりたい…。


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◇今週のボイレコ

「コピコピコピ(Kopi)…ポップミーポップミーポップミー(Pop mie)…」
「アークアアクアアクアクアクア(Aqua)…」
「ナシー…ナシアヤム(Nasi ayam)…アーヤムゴレン(Ayam Goren)…」
「ターフーターフーターフタフタフタフ(Tahu)…」

夜行列車が駅へと入り対向列車の通過を待つ長い長い停車時間、物売りたちは
何度も何度も商品名を繰り返しながら車内の通路を行き来します。コーヒー・
カップラーメン・水・新聞・ご飯・フライドチキン・揚げ豆腐・各種お菓子…。
合計3本の列車が過ぎ行く30分もの間、床に寝転ぶ客たちをまたぎながら物売
りたちの往復はえんえんと続きます。

 ▽列車内に響く物売りの声
 http://www.i-yan.com/travel/vol40/hanbai.html


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□幸せそうに見える人々

インドネシアのジョグジャカルタの市場で、フランス系カナダ人のリカルドと
私は雨宿りをしていました。夏季の半年間を森で働き、残りの半年間で海外を
旅するという暮らしを20年間続けているリカルド。インドネシアは100カ国目
だといいます。

 ▽リカルド
 http://www.i-yan.com/travel/vol40/ric.html

もうすぐ夕闇が訪れようとしています。スコールの轟音が鳴り響く中、市場の
女性たちは陳列された服や布をまとめては、それを畳んで木の箱へと収納して
いました。リカルドが問いかけてきました。

「どうだい、人々は幸せそうに見える?」

NO、とまで即答できました。決して不幸せには見えないけれど、彼女たちの
表情からは幸せさは感じられません。リカルドはこう続けました。

「この市場はね、毎朝6時に開くんだ。土曜も日曜も毎日毎日。彼女らは食事
 をとるほんの少しの休憩以外、ずっとここで働いているんだ。
 ……人々はね、もうとっくに生活に飽き飽きしているよ」

女性たちは何度となく繰り返してきた閉店作業を終え、商品が全て納まった木
の箱に南京錠をかけると、蛇腹のシャッターを引きました。

「君が訪れた他の国々ではどうだった?人々は幸せそうだった?」

リカルドがまた問いかけます。真っ先にタイが浮かび、ラオス、ベトナムの田
舎、オーストラリアのビーチ、台湾の夜市…と人々の顔は巡りますが、国単位
にひっくるめたら答えなんか出てきません。どの国にも両面の人がいます。

ただその表情だけで見るならば、繁華街を行く人や、幼い子連れの両親や、食
事を楽しむ人の顔はどの国でも幸せさに溢れています。気の良いドライバーや
物売りのおばちゃんたちからも、客や商売仲間と話しながら仕事をすることの
充実感を見ることができました。

しかし、それ以外の人々が不幸そうに見えたわけではありません。バスを待つ
人、荷を引く人、川を見る人、鍋を振る人、その多くが市場で見た女性たちと
同様、何も読み取れない坦々とした表情をしていました。極端な例を挙げれば、
タイとカンボジアの国境で旅行者に小銭をねだっていた乞食少女にすら悲壮感
はありませんでした。少女はつまらなそうに「ワンバーツ」と何度もつぶやき、
お金を受け取ってもその顔に何ら感情を示すことはありませんでした。


それまでと何一つ変わらない出来事の繰り返しは、人の心を安定させると同時
に鈍くしてしまいます。本人にとってただ“普通”で“あたりまえ”な時間が
過ぎていき、その間、人は表情を失います。

リカルドが私に認識させてくれた『幸せそうにも不幸そうにも見えない人々』
の正体。それは、世界中のほとんどの人が頻繁に足を踏み入れている、
『目新しさを見出せない時間帯』の中にいる人々でした。


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◇今月のカレンダー

 ▽インドネシアの3月のカレンダー
 http://www.i-yan.com/travel/vol40/cal060310.html


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