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┃ 旅の最中のよい香り Vol.051
│ 2006/08/20 http://www.i-yan.com/
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○私は今ここにいます : インド共和国 ウッタランチャル州 リシュケシュ
ナマステ、いいやんです。今号もまたリシュケシュからの発信です。2週間ほ
ど前に宿を移り、近所の楽器工房に通う日本人たちのコミュニティの中に入り
ました。工房の客は日本人とイスラエル人が多く、ディジュリドゥ・ジャンベ・
カリンバ・カスタネットなどの楽器を木材から掘り抜いて作っています。
夕飯はいつも井戸のある中庭で自炊をして皆で食べます。リシュケシュは菜食
の町なので肉類は入手できません。野菜炒め、野菜スープ、野菜炊き込み御飯
などをいかにして野菜のみでおいしく作るか?豆類やスパイスなどのインド食
材は一体どう使うのか?たまに食べたい和風テイストをどのように作り出すか?
制約のある環境には新しい味へのヒントがたくさん転がっています。
既にここリシュケシュで2ヶ月間が経過しました。この町は私にとってとても
意味のある場所となりそうです。
──今号のもくじ──
■インド人に混じってお金を使う
◆連載:今週のボイレコ
■大人の遠足inマナリー 8月8〜12日
◆連載:今週の調味料
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□インド人に混じってお金を使う
インドに入ってから4ヶ月の日々が流れた。インドほど長期旅行に適した国は
無い。入国時、6ヶ月間もの滞在許可をパスポートにもらった旅行者は、独持
の文化が混ざり合う中で時間をすっかり忘れて興味だけを追うことができるか
らだ。東南アジアよりも安いと言われる生活費も誇張では無かった。贅沢をせ
ず安宿に泊まり、ローカルの食堂で飯を食い、ジュースや果物やタバコを買う
くらいならば、日に5ドルもあれば余裕を持って過ごすことができる。
30年前には[10ルピー=250円]だったという換金レートは、現在はその10分の1
にあたる[10ルピー=25円]。『貧乏旅行』と呼ばれるスタイルが成立するのは
この貨幣価値の差のおかげだ。お金とは何なのか、貧困はなぜ起こるのか、イ
ンドにいると経済学者でなくともそんな素朴な疑問が沸く。
+++
インド人の金銭感覚に注目するうちに、5ルピーが100円くらいの感覚で使わ
れていることに気づいた。5ルピーあればお茶を飲めるし、バラ売りの飴玉や
ビスケットをちょこちょこ買うこともできる。20ルピーあれば安いご飯を腹いっ
ぱい食べられる。近場までの乗り合いオート三輪車も5ルピーが相場。タクシー
のようにチャーターする場合はぐっと上がって40〜50ルピーほどだ。
今の季節、じゃがいもは1キロ15ルピー前後。生野菜は安いので、買う時には
数ルピーの違いにも敏感になる。じゃがいもを茹でてつぶしてスパイス混ぜて、
小麦粉の厚い生地に包んで揚げた“アルーサモサ”が、揚げ物屋で1個3ルピー。
日本の肉屋でコロッケを買う感覚に似ている。
たまに物乞いにお金を渡す。2ルピー硬貨を渡すと「5ルピーくれよ」と突っ
返されたりもする。逆に10ルピーも渡せば相手は顔を覚えてくれて、次に通り
かかった時には気づいて笑顔をくれることもある。
+++
直径約2cmでちょっと分厚いこの5ルピー硬貨がインドの100円玉なのだ。し
かし実際の5ルピーの価値は12.5円しかない。12.5円の価値の硬貨を100円的
に使えるということを別の言葉にするならばこのようになる。日本人がインド
へ行くとその人の“金持ち度”が日本にいる時の8倍になる、と。
そして多くのインド人はその事実を知らない。金持ちの日本人は日本でも金持
ちだ、という考えに疑問は微塵も無い。だから私は彼らにこんなたぐいの質問
をされることがある。
「日本人と韓国人は、なぜ酒を飲んでいてもケチなんだ?」
倹約してるんだよ、そう答えると彼らはますます納得のいかない顔をする。
「だって日本人の給料はインド人に比べてすごく多いだろう?」
この問いの答えはどう考えてもイエスだ。でもそこでいつも私は、日本人がお
金をぱぁっと使ってしまわない理由を、彼らになんとか説明しようと試みる。
そしてその試みはたいてい失敗に終わる。日本人がインド人に比べ圧倒的にお
金を持ってしまっている以上、それを使わない理由なんてもんは、彼らにとっ
ては金持ちのまるっきり贅沢な悩みとして映っていることだろう。
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◇今週のボイレコ
8月16日はヒンドゥー神クリシュナの誕生祭であった。町に点在する寺院には
人々が押しかけ儀式がとり行われる。華やかに賑わう寺院もあり、厳かに進行
される寺院もあり、しかしそこには宗教音楽という共通項がある。
▽クリシュナ誕生祭の寺院
http://www.i-yan.com/travel/vol51/krishna.html
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□大人の遠足inマナリー 8月8〜12日
旅人生活も2年生ともなると旅のしかたにバリエーションも生まれるというも
の。同じ宿の旅行者たちと連れだって、部屋に荷物を置いたままの軽装で、北
部山岳地帯に位置するマナリーへと小旅行をすることとなった。各々が一人旅
スキルを持っているため、団体行動のルールなんてもんの意味合いがごく軽く
なってしまっているのは暗黙の了解だ。
+++
『あい出発しまーす』
今回、胸をわくわくさせながらピクニックに向かうメンバーは、素肌にオレン
ジ色の布を体に巻いて暮らし、夜な夜なファイヤーポイを回す“炎の魔術士”
ことショウゴ、ヨガと菜食を愛する沖縄顔の青年カジャ、“くつしたポイ”を
使いこなす陽気なシノブ、寡黙にパチカやディジュを演奏するノリちゃん、マ
ナリーからそのまま北部を目指す重装備の石井ちゃん、そして私の6名だ。
バスで移動しつつ車中で一泊し、標高1900mのマナリーバスステーションにた
どり着いた。ここから徒歩で数km離れたバシストという温泉地を目指す。町
から伸びる大きくカーブする道の両脇には草木が萌え、通りに沿った山の斜面
に店や民家が立ち並ぶ。
バシストへ向かう道を一列で歩くいていると、ババたち(修行者)がリクシャー
に乗って通りかかった。リクシャーは減速し、ババがショウゴに話しかけた。
「ジャパーニーババー!」
実はショウゴは儀式も終えた本物のババだ。その姿は一目でババとわかる。リ
クシャーのババはどうやらショウゴのことが気に入ったらしく座席に乗せよう
とする。ショウゴは躊躇せず乗り込む。他の面々は「ババだと得だなあ」なん
て思いながら笑顔でそれを見送る。どうせ先で会えるでしょ、会えなくても心
配はしないぜ。皆そう思っていたはずだ。
+++
2kmほど歩き、数百mの斜面を登りバシストにつくと、雨が降りだした。そ
のとき目の前にあったのが“タムディン・チベタン・カフェ”。旅行者の間で
は名の通ったチベット料理店だ。雨宿りを兼ねて皆で中へと入る。
「おお〜、おいっすおいっす」
店内に入った私に声をかけてきた男に私の目は釘付けになった。アットホーム
な店内のくつろげる座敷の席に座っているのはなんとサラポンだったのだ。長
髪で、でかい体に静かな目の彼とは沖縄で会い、インドのコルカタでたまたま
再会した。まさかここで再々会を果たすことになるとは……そう思った矢先…
「あららら、あれ?あれれ〜?」
背中を向けていた男がなつかしい声とともに振り返ると、それはまこっちゃん
だった。コルカタ、ブッダガヤ、バラナシ、デリーと同時期に移動をして、抜
きつ抜かれつ各都市で再会していたのは3ヶ月ほど前のこと。仏様のような優
しい顔はますます磨きがかかり、飽食続きで少し肥えたようにも見える。
「おー久しぶりー、また会っちゃったね」
再会はすごく嬉しくて、照れはすこし隠したくて、なんかこんなノリになる。
人の縁はおもしろい。別れても別れてもめぐりあう人がいる。それが2人同時
に起こるような珍しいことも、ある日いきなり当たり前の様に起こってしまう。
避暑地の温泉地のくつろげる料理店。仲間が輪となり座り、外は通り雨。おあ
つらえ向きだ。楽器が音を出し始め、食器は湯気を立ち昇らせ、空腹は満たさ
れ、煙が流れて、笑い声は通い合う。大人の遠足には予定も期限も無い。この
ひとときはいつまでも続く、いつまでも続けられる。
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◇今週の調味料
▽インドの特設レストランのテーブルの上
http://www.i-yan.com/travel/vol51/chomi060820.html
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