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┃ 旅の最中のよい香り Vol.053
│ 2006/09/16 http://www.i-yan.com/
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○私は今ここにいます : パキスタン・イスラム共和国 フンザ
こんにちは、いいやんです。“風の谷”の異名を持つパキスタン北部の山岳地
域フンザにいます。村々の畑ではジャガイモが収穫され、木々はリンゴの実で
たわみ、人々はまるで忙しさを知らないかのようにその風景に溶け込みます。
乾いた風が裸の岩山に吹きつけ、川の水は砂粒を押し流し、隆起と浸食とのバ
ランスの中で残された地盤が山々となり鋭く天を向いています。
──今号のもくじ──
■ワガ・ボーダーのトマト運び(インド出国・パキスタン入国)
◆連載:今週のボイレコ
■スーフィーナイトの黒い影
◆連載:今週の調味料
◆サイト更新情報
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□ワガ・ボーダーのトマト運び
インド、パキスタン間の唯一の陸路国境ワガ・ボーダー。最寄りの町アムリト
サルからわずか1時間ほどでここへと到着した。あたりは草原や畑ばかりで、
小さな茶屋と売店でインドルピーを使いきったら、国境越えの道をパキスタン
へと向けて歩きだす。
インドの出国イミグレーションには旅行者の姿は無い。広々としたフロア内で
1人の係員を相手に、ゆるゆると出国の手続きが進む。荷を背負いまたパキス
タンへと続く道へと出ると、私たち旅行者とは別の集団が目に入った。
彼らの細長い手足と顔は日に焼けて黒く、鮮やかな青い上着をすっぽりと着て
いる。頭には布を巻き、その上には大きな木の箱を積んでいる。100人をゆう
に越えるその集団は列をなしてパキスタンへと歩いている。「何を運んでいる
の?」そう問うと「トマトだよ」との答えが返ってきた。
舗装されたきれいな道をトマト運びたちと共に歩くと、じきに国境ゲートが見
えてきた。インド側とパキスタン側それぞれにゲートが設置され、ゲート間の
国境地帯に国境線が引かれている。両国の軍人が1人ずつ立つその国境線上で、
物珍しい光景が展開された。
インド側から来た青いトマト運びたちの列はここが先頭。頭上のトマトの箱は
パキスタン側に並ぶ赤と緑の上着のトマト運びたちの列へと渡されていく。国
境線を越えることができないトマト運びは、まさに国境線のその上で、向こう
の国のトマト運びに荷物を手渡しして、来た道を引き返していく。
国境線をまたぎ、国境ゲートをくぐり、入国したパキスタンの光景はそこまで
と変わることは無く、手入れが行き届いた草原に風が吹き、ゆったりとした空
気に満ちている。「いらっしゃい、まあ座りなさい」「ちょっと2分待ってて」
「バスは10分毎に出ているよ。女性は前、男性は後ろに乗るように」……人の
言動の根本にある文化はインドと明らかに違う。永い時間を経ても混じり合う
ことの無い異文化の境界線は、人の出入りだけが厳密に管理されていた。
▽国境のトマト運び
http://www.i-yan.com/travel/vol53/tomato.html
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◇今週のボイレコ
フンザの渓谷を見下ろすイーグルズ・ネストからは、多くの旅行者の拠点とな
るカリマバードのある丘や古い砦のあるアルティット村が一望できます。ここ
で出会った16歳の少年はここで毎日笛を練習しています。少年はパキスタン北
部で広く知られる楽曲『タラー・タラー』を演奏してくれました。
▽フンザの渓谷に響く笛の音
http://www.i-yan.com/travel/vol53/flute.html
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□スーフィーナイトの黒い影
インドからの陸路の玄関口となる、パキスタン北部の町ラホール。この町では
スーフィズム(イスラム教の神秘主義)の祭事『スーフィーナイト』が毎週木
曜の夜に開催される。
ヒゲの男たちがひしめき座る境内で、巨大な両面太鼓を首から提げた2人組が
鋭いリズムを弾きはじめ、ダンサーの男たちが異様な動きを繰り返しだすと人々
のボルテージは上昇していく。はじめは異国からの旅行者団体をちらちら気に
していた人々も、そのうち音の濁流に身を任せてあぐらをかいたまま首を振り
始める。
そのまま2時間以上が経過し、あたりを支配し続ける鼓動に思考が麻痺してき
た頃、それでもなお旅行者に興味を持って話しかけてくる男が1人いた。
「俺はボクサーだったんだ。この筋肉に触ってみろ」
「そのカメラはいくらするんだ?」
「実は俺はクリスチャンなんだ。お前の連れにクリスチャンはいるか?」
「記念に何か、日本のものをプレゼントしてくれないか?」
30台半ばに見えるその男の話は突飛でしつこい。その時、私はポケットを触ら
れた気がして背後を振り返った。…さっきまで居なかった太身の男が1人、私
を見るなりにこやかに笑いかけてきた。今のは気のせいだったのか…そう考え
て私は、その旅行者の真ん中に陣取る太身の男に話しかけてみると、彼はこち
らに調子を合わせるばかりで英語は全く聞きとれない。ひとつだけ分かったの
は、彼もまたクリスチャンを名乗っていることだった。
少し避難して座りなおし観察していると、その2人は反省会をしたあとでまた
離れ離れになった。元ボクサーの男は群集を見渡せる立ち見席まで歩くと、こ
ちらへ向き直して旅行者たちを見た。その顔つきは眉間に深いしわが寄り、目
には獲物を狙う鋭い光があった。それから近くで同じように目を光らせる別の
男と何かを話し、しばらくすると彼らの姿は消えていた。
太鼓の音はますます響き、人々は流れ込んでくる大音響の中で座したまま陶酔
していき、もはや会話は成立しなくなる。狂乱の祭事はこうして深夜2時まで
続く。
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◇今週の調味料
▽フンザのスープ屋さんのテーブルの上
http://www.i-yan.com/travel/vol53/chomi060916.html
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