旅の最中のよい香りindex


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┃   旅の最中のよい香り Vol.056
│     2006/10/28 http://www.i-yan.com/
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 ○私は今ここにいます : イラン・イスラム共和国 ヤズド州 ヤズド

サラーム、いいやんです。タフタン・ボーダーを抜けイランへ入国しました。

イランといえば、のガソリン代はリッター800リアル…つまり約11円。都市間を
安価で行き来する相乗りタクシーなんて商売が成り立つのは、このガソリン代
の安さのおかげです。

夜間に立ち寄ったガソリンスタンドはなぜか店員がおらず、タクシーの運ちゃ
んは自分で満タンまで注入すると何事も無かったかのようにまた走り出しまし
た。人件費と利益のバランスを考えると、イランのガソリンスタンドの店番ほ
ど馬鹿馬鹿しい仕事は無いのかも知れません。


──今号のもくじ──

  ■クエッタの靴屋『Mari Balochi Chapal Shop』
 ◆連載:ムービーリプレイ
  ■世界遺産『バムとその文化的景観』
 ◆連載:テーブルの調味料


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□クエッタの靴屋『Mari Balochi Chapal Shop』

「私の名前はママ・マリっていうんだよ。ママってのは“おじさん”って意味
 さ。マリ・トライバルを知っているかい?山奥で政府とドンパチやってる部
 族のことだけど、ここの靴はそのマリ・デザインというわけだ」

なかなか流暢な英語で、靴屋のじいさんはそう話し出した。この町、パキスタ
ンはクエッタの、バザールのはずれから伸びている通りには、数百メートルに
わたって間口3メートル奥行き2メートルほどの小さな靴屋が軒を連ねている。
様々なデザインの靴とサンダルは店内の壁三面に体育の授業のようにきれいに
整列している。

「裏側を見てみなさい、メイド・イン・ジャパンのブリヂストンだ」

靴底の分厚い牛皮の下にはタイヤのゴムが貼られている。高くなったかかとの
部分はトルコ製のタイヤ、本体は輸入物の高品質の皮で作られるという。そう
話すママ・マリのかたわらで職人が靴底側面のラインを削り出している。

山地で活動する武装集団が作り上げた頑丈なマリのサンダルは、町の人々にそ
うとうウケている。靴屋街には若い男性を中心とした人だかりがうごめき、客
たちはずらり並んだ店を次から次へと物色していく。靴は一足1000ルピー(約2000円)、
サンダルは一足500ルピー。100ルピーで豪華にたらふく食べられる現地の物価
からするとかなりの高額であるにもかかわらず、見ている間にもおもしろいよ
うに売れてゆく。夜の12時まで靴屋街の灯りは消えない。

「所得税なんかは払わなくてもノープロブレムさ」

作り売りならそりゃそうだ。これもまあ政府への抵抗活動のうちか。

 ▽クエッタの靴屋街
 http://www.i-yan.com/travel/vol56/mari.html


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◇ムービーリプレイ

インド→パキスタン→イランの順に洗練されていくチャパティの焼き上げ技術。
産業革命と分業によって実現された、見事な焼き上げ工程をご覧あれ。

 ▽イランのチャパティ焼き上げ工程
 http://www.i-yan.com/travel/vol56/chapati.html


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□世界遺産『バムとその文化的景観』

パキスタンのある宿に置かれた情報ノートの手書きのイラン地図にはこうあっ
た。『遺跡のバム』ただこれだけ。そこを目指す豪奢な設備のバスは滑らかな
道路を半日ほど走り、みすぼらしい空き地にしか見えないバスターミナルで停
車した。その時、私は2003年12月26日に発生した『バム大地震』のことを全く
知らなかった。

震災によって町と遺跡は壊滅的な打撃を受け、死者は45000名にものぼった。
バム遺跡はその80%が破壊され、2004年『バムとその文化的景観』は危機遺産
としてユネスコに登録された。


遺跡の外壁の継ぎ目を抜けその中に足を踏み入れる。そこは一面、土色の瓦礫
の山が広がっていた。屋根の崩壊した建物、扉だけ残し倒れた壁、連なるむき
出しの柱、そして無数の形のない土の塊がまるで降り積もったかのように彼方
まで続いている。何か壮大な物があった痕跡とそれがこのまま風化を待ってい
るたたずまいに、歴史の見納めという言葉が浮かぶ。


町のそこかしこには倒壊した建物が放置されている。建築資材が道ばたに積ま
れ、町全体が『工事中』のついたての内側のようだ。通り沿いのさら地には列
車に乗せるようなコンテナが並び、肉屋、文房具屋、バイク屋などが仮店舗と
して営業をする。町一番の大きなモスクのドームもいまだ補修中だ。


町外れには震災の被害者の共同墓地があった。故人の遺影の彫りこまれた石の
墓標が広い敷地にどこまでも続く。それらはすべて整然と真南を向いており、
それに向き合うと大いなる悲しみの思念が流れ込んでくるようだ。

墓地が嘆きと悲しみを一手に引き受けているからだろうか、町の人々はあっけ
らかんと陽気に生活しているように見える。壊れた家々の跡地には重機が深い
穴を掘り鉄筋が組まれる。名産品のなつめやしは鈴なりに実を結ぶ。


町の中心の近く、おもちゃや雑貨をあつかうコンテナ店舗『Day to Day』の店
内には、かつてのバム遺跡の景観がデザインされた陶器の小箱が1つ置いてあっ
た。その側面には英語とペルシア語でこう書かれている。

「バムはまだ生きている」


 ▽バムとその文化的景観
 http://www.i-yan.com/travel/vol56/bam.html


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◇テーブルの調味料

 ▽ムハンマドさんちのテーブルの上
 http://www.i-yan.com/travel/vol56/chomi061028.html


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┃   旅の最中のよい香り
│      発行者:いいやん

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