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┃ 旅の最中のよい香り Vol.058
│ 2006/11/29 http://www.i-yan.com/
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○私は今ここにいます : ブルガリア共和国 ソフィア市
ズドラベイテ、いいやんです。イスタンブールから北上し東欧のブルガリアへ
入国しました。日本からブルガリアへ移住した知人宅にご厄介になり、ソフィ
ア市の歴史や文化、昨今の動向の裏話にいたるまで様々なことを教わりながら
町歩きをする日々を過ごしています。
7ヶ月ぶりに口にした豚肉は、まるで出会いのような真新らしさを感じさせて
くれました。インド以西、どこへ行っても目にしていた炙り肉文化は、ここに
来てついに豚肉が加わります。
冬の訪れは日に日にはっきりと感じられます。イランで買った上着だけではこ
と足らず、ウール地の手袋と靴下を着込んで染み入る寒さを防ぎます。この先、
さらに北へ上るか、引き返して南を目指すか…連日の曇り空と夜の霧は、決断
をする気力すら白く凍えさせてしまいます。
▽ブルガリア ソフィアの風景
http://www.i-yan.com/travel/vol58/sofia.html
──今号のもくじ──
■ジプシー居住区 勝手に見学 〜前編〜
◆連載:ボイスレコーダーリプレイ
■ジプシー居住区 勝手に見学 〜後編〜
◆連載:テーブルの調味料
◆サイト更新情報
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□ジプシー居住区 勝手に見学 〜前編〜
ソフィア郊外にあるというジプシー(ロマ人)居住区を目指し、ソフィア中央
駅前から77番のバスに乗った。移動型民族ジプシーはインドが発祥と言われて
おり、記録によるとその歴史は1000年に及ぶ。独特の生活様式や価値観を持つ
彼らには差別や偏見の目が向けられるため、共同体を作り互いを守るのはうな
ずける話だ。私は興味本位10割で、その生活を垣間見るためにそこへ向かって
いる。バスを終点で降りて徒歩5分でスホドルスカ通りへと到着した。
◇
ここの街並みは市の中心地とは明らかに異なる。下水が整備されていない道は
水はけが悪く、一昨日の雨でまだ湿ったままだ。家々は平屋か二階建て。レン
ガを泥で継ぎ合わせて作られた壁は寒々しく、三角屋根の煙突からは白い煙が
ホコホコと昇っている。あたりには酷い臭いが立ち込めている。ドラム缶にゴ
ミをつめこんで盛大に燃やしたらこんな臭いになるだろうか。
横道に入り奥へと進んでみる。横道といっても家々には庭があり視界は開けてい
るため、異変にはいち早く気付くことができる。未知の相手のテリトリーにお邪
魔するのだから、警戒はおこたるべきでない。生活路であるこの道では子供たち
が遊び、大人たちが歩き回っている。ある男性の服装は粘土を塗りつけて乾燥さ
せたような汚れきったジャージの上下。その男性は通りがかりの少年に何かを言
われるやいなや、少年の襟首をつかみ壁に押しつけ怒り出した。なんだかわから
んが私はそれを横目に通り過ぎた。
彼らの多くが、よそものである私の姿にすぐに気付く。幸いにも、イスラム圏を
旅することで注目を浴びることに私は慣れっこになっていた。きょろきょろしな
がら歩いていると、向こうから私を見つけたガタイの良い金髪のおばちゃんが目
をむいてわめきながら近づいてくる。私はとぼけながら応対し様子を伺うことに
した。実際、言葉がわからないのだからどうしようもない。周囲の大人たちの行
動に変化は見られず、大事になりそうな気配は無い。こちらに敵意が無いことは
わかってもらえたようなので、そそくさと先へと進んだ。
10歳くらいの兄妹が遠慮がちに「ハロー」と声をかけてきた。「ハロー」と返す
ととたんに笑顔になった。しかしまあ、それ以上の言葉はやはり通じない。そう
こうしていると先ほどのジャージの男性がやってきて兄妹に何か教えるような口
調で語りかけた。すると兄妹は急に険悪な顔つきになった。私はどうも妙な空気
を感じそこから歩き出すと、兄は強い口調で何かを言い、妹は地面を蹴り上げ追
いたてるような仕草をした。
道は大きなゴミの山につきあたりT字路になっていた。ゴミ山の上には放し飼い
の犬が何匹かおり、その向こうは林が広がる。左の道を見るとここまでと同様の
バラックが少し続き、行き止まりになっているように見える。右の道は林の中へ
と続くのか細くぬかるんでいる。右の道からは数名の男たちが大きな袋をかつい
で集落へ帰ってきたところだった。その一人が声をかけてきた。優しそうな表情
のおっちゃんだ。言葉がわからないのは相変わらずだが「お前、一体全体ここに
何しに来たんだ?」と言いたげに思える。ごもっともでございます…。
後半へ続く▼
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◇ボイスレコーダーリプレイ
路面電車と乗用車が行き交うソフィアの街角の雑踏に、アコーディオンとギター
の調べが響く。二人の男性は楽器を奏でながらよく調律された声を重ね合わせる。
▽ソフィア街角のミュージシャン
http://www.i-yan.com/travel/vol58/sofiacloss.html
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□ジプシー居住区 勝手に見学 〜後編〜
「おまいさん、俺らは危害を加える気は毛ほども無いが、
たぶんここにはおまいさんがやるべきことは何も無いだろう」
来た道を引き返しながら私は、隣で話しかけてくるおっちゃんの言葉を脳内で
そう変換して聞いてみた。おっちゃんが肩にかついでいる袋の中には丸のキャ
ベツがたっぷり。通りがかりの庭先では、じいさんが巨大な丸太を相手にチェー
ンソーで格闘している。道端にゴムタイヤの馬車が止められ、馬が静かに立っ
ている。小さな食料品店、美容院、キリル文字で壁に書かれた“cafe”。
その時、横の道からわらわらと十数名の男女が現れた。それに続いて一台のタ
クシーが切り返しをしてターンし、大通りの方へ出ていく。ブルガリアのタク
シーの運賃は初乗り0.25ユーロ、市内を数km走ってもせいぜい2ユーロと非常
に安く、ひょっとしたら運転手はジプシー親父が多いのかも知れない。金を稼
ぎに出かける一家の主を皆で見送る、そのような光景にも見えた。
券売窓口のようなつくりの駄菓子屋の前で7人の男の子が遊んでいた。リーダー
格の少年が話しかけてくる。少年は私を駄菓子屋の前へ導き「カフェ?」と聞
いた。まあそれも良いけれど、私は皆で分けられるスナック菓子を買い、袋を
空けて差し出した。「食べなよ」「ネッ(No)」きっぱりと断られてしまった。
「ダ(Yes)、ダ(Yes)」とさらに薦めると、少年は1カケだけそれを受け取っ
て口へ運んだ。しかし他の子供たちへ薦めるのには「喉が渇くから」とジェス
チャーをして許してくれなかった。子供たちはみな行儀良く私を見ていた。
行きに出くわした金髪のおばちゃんはまだそこにいた。私を見るなりまた何か
声を張り上げてわめく。何か1つの単語を繰り返しているが、私はその意味は
知りたく無いなあと思った。足早に立ち去ると今度は後ろから「ヘイッ!ヘイッ!」
と、呼びとめているかのような言葉。なんだかよくわからない。何しろここは
Yesのジェスチャーで首を横に振る国だ。
大通りとの交差点が見えた。まだ白い煙は一面に立ち込めている、先ほどのジャー
ジの男性がそこで、数名の男性と立ち話をしている。…しかし彼らは向き合っ
て立ってはいるが会話をしていない。私は横目でこちらを見た彼と軽く視線を
交わしてその横を通り過ぎた。彼は私の行動を観察していたのかも知れない。
ダイオキシン満載の悪臭から抜けた路上に、煙を上げている一本のタバコがあっ
た。私はどうしようもない無意味さを感じながらも、それを踵で踏み消した。
◇
彼らジプシーの行動には独持の信念が感じられる。その一つの側面は『触らぬ
神にたたり無し』に通ずるものがある。できることは自分たちでやり、外部の
者に何かを求めず、そのかわり干渉されることも求めない。この印象は、長い
迫害の歴史の中でおのずとできあがった彼らの社会通念だろう。
バス停留所近くの中央分離帯に馬車が横付けされていた。ジプシー男性2人が
伸び切った雑草を刈り取り荷台へと盛っている。私はその光景を見ながら、こ
れも焚き火の燃料にするのだろうかと考えた。そうだゴミを燃やした煙が悪臭
を含むようになったのはここ100年ほどのことなのだ。
自然が減り、ゴミが汚染され、各地で都市化が進む中、彼らジプシーはどのよ
うにして伝統的な生き方との折り合いをつけ、生きる道を見出していくのだろ
う。
▽ジプシー居住区の風景
http://www.i-yan.com/travel/vol58/gypsies.html
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◇テーブルの調味料
▽ブルガリアのレストランのテーブルの上
http://www.i-yan.com/travel/vol58/chomi061129.html
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※ジャンクフードから伝統料理、怪しい缶詰や調味料に至るまで、
世界各国の食べ物の情報をお寄せ下さい。大概のものは口に入れて
レポートいたします。 宛て先はこちらまで→ myugo60@hotmail.com
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