旅の最中のよい香りindex


┏━━…━━━…━━━…━━─…───…─
┃   旅の最中のよい香り Vol.061
│     2006/01/15 http://www.i-yan.com/
└──      ━━…━━━…━━━…━━━…━
 ○私は今ここにいます : エジプト=アラブ共和国 ダハブ市

マルハバ。そして新年明けましておめでとうございます、いいやんです。

前回発信のヨルダンのアンマンからバスで南下し、突然の豪雪に閉ざされたヨ
ルダン南部を抜け、アカバ湾をフェリーで渡りエジプトへ入国しました。

ここダハブはリゾート開発の最中にあり、安めの物価と上質の環境が共生した
楽園のような町です。宿の門を出れば眼前には透明な海。海岸沿いの遊歩道に
は雰囲気の良いオープンカフェが立ち並び、ダイビングショップも軒を連ねま
す。

 ▽ダハブの風景
 http://www.i-yan.com/travel/vol61/dahab.html


──今号のもくじ──

  ■乗ってはいけないスローボートツアー
 ◆連載:ボイスレコーダーリプレイ
  ■少年アハムッドのこと
 ◆連載:テーブルの調味料


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

□乗ってはいけないスローボートツアー

中東の国々は、日本から見るとなんだかよくわからなくて、どこもかしこも危
険に見えてくる。しかし実際には多くの旅行者が行き来しており、レバノンに
もイスラエルにも観光客は普通にいる。町には人々の生活があり、多くの善良
なる市民が旅行者との関わりを楽しんでいる。ならばこのエリアの危険性とは、
有事が勃発する可能性の大小で計られているといえそうだ。

そこで旅行者の多くは信頼性のあるルートと宿を根本に据え、それをアレンジ
して各自のルートを作る。拠点となる町にはそれぞれ有名な安宿があり、近隣
の旅行者の足跡が情報ノートに記載され、蓄積されてゆく。

   ◇◇

さて、そんな情報を収集する中で、ヨルダンからエジプトへ向かうには3つの
ルートが存在することがわかった。

 1.アカバ湾をスピードボートで渡り、海路でエジプトへ入国するルート
 2.アカバ湾をスローボートで渡り、海路でエジプトへ入国するルート
 3.イスラエルを通り、陸路でエジプトへ入国するルート

年末をエジプトで過ごそうと急ぎ足だった私は、イスラエルには向かわずにア
カバ湾の港町その名もアカバへと向かった。ボートでの越境について、各地で
見た情報ノートには、警告めいた調子でこう書かれていた。

 『少々高くつきますが、スピードボートに乗らないとえらい目に遭います』


 ◇◇◇◇◇◇


ローカルバスで19時にアカバに着いた私は、アラブ人の波に流されるままスロー
ボートへと乗り込んだ。巨大なフェリーボートの搭乗口から車載フロアへと入
り、階段を上るとレセプション。係員にパスポートを預け、誘導されるままさ
らに階段を上り、左に折れてドアをくぐると、横から冷たい風が吹いた。私は
他の乗客たちと共に、船の甲板に案内されたのだった……


 ▽スローボートツアーの模様
 http://www.i-yan.com/travel/vol61/bort.html


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◇ボイスレコーダーリプレイ

「アッラー!アッラー!アクバルアッラー!!」

路面凍結で立ち往生したバスの中、私のボイスレコーダーの存在を知るや隣の
オヤジはいきなり声高らかにイスラム教の神アッラーの名を唱えた。

 ▽アッラーの名を唱えるオヤジ
 http://www.i-yan.com/travel/vol61/allah.html


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

□アハムッド少年のこと

それにしてもダハブは小さな町だ。観光化され便利で賑やかな海岸沿いのメイ
ンストリートをひとたび外れれば、荒涼としたむき出しの荒野が広がり、遠方
には裸の山々が連なる。

私はそんな景色を見ながら、宿『セブンヘブン』の裏手の幹線道路の脇にいた。
北の村の方から歩いてきた一人の少年が、「1ポンドちょうだい」と言って手
を差し出してきた。

「めし食い行くけど、いっしょに行くか?」私がジェスチャーで少年にそう伝
え歩き出すと、少年はうなずき私の横に並んで歩をあわせた。年は五歳くらい
で、髪は短く、くりっとした目が印象的だ。


何度か夕飯を食べにきた町中の飯屋へ向かい、朝食と紅茶を注文した。二杯の
紅茶がすぐに出てきた。こんなまっ昼間に外食なんて、子供にはなかなか無い
経験だろうかと考えながら、私は少年の一挙一動に注目した。

エジプトの紅茶は、茶葉を入れたガラスのコップに熱湯が注がれて運ばれてく
る。砂糖を小さじ二杯ほど加え、そのまま砂糖さじでカラカラとかき混ぜ、少
し冷めるのを待つ。少年はちゃんとその作法を見知っていた。

紅茶をすすっているうちに朝食が運ばれてきた。アラブの薄いパン、そら豆の
煮込み、豆コロッケ、薄切り野菜、目玉焼き。パンを油揚げのように袋状にひ
らき、中に具を入れサンドウィッチのようにして食べる。こうしてパンと共に
数種類の小皿料理をシェアするスタイルがエジプトの庶民食の基本のようだ。

 ▽アハムッド少年
 http://www.i-yan.com/travel/vol61/ahmed.html


店の入り口に座っている欧米人グループの席に、人数分のコーラが運ばれていっ
た。少年はそれを運ぶ店員の手に目を奪われ、それからはっと私のほうを見た。
私はコーラを二本追加注文した。

アラビア語のほとんど解らない私は、この少年のことを何も知らない。少年に
とってもその事情は一緒だろう。運ばれてきたストローの挿さった瓶コーラを
少年と乾杯し、一口飲んでテーブルに置く。

すると少年は手に瓶を持ったまま、また乾杯を求める仕草をした。二本の瓶を
合わせると私のほうが少し減っている。少年はまた一口コーラを飲んで、それ
からまた瓶を並べ合わせた。今度は瓶に残ったコーラは同じ高さを示していた。
少年はそれを指差し何かをしゃべり、少し得意そうに笑った。私もまた何かを
しゃべって笑い、それに応じた。それから二人は瓶が空になるまで、何度も乾
杯をしてコーラのかさを比べ合った。

エジプシャン朝食セット、チャイ二杯、コーラ二本、しめて11.5ポンド。200円
ちょっとの金額だった。おつりの50ピアストルを少年の前に差し出すと、彼は
ためらわずそれを手に握り込んだ。


宿までの道を歩き出してすぐ、少年は小さな商店に入り棒状の砂糖菓子を手に
とり、またたく間に50ピアストルを遣ってしまった。店の外に出た少年は菓子
をポキンと二つに折ると一方を私に渡した。

それから一緒に歩く道すがら、私は今更ながら少年に名前を聞いてみた。
「あなたの、なまえは?」「アハムッド!」「アハムッド。わたしはユウゴ」
「ユウゴ、#$%!§*%¢……」アハムッド少年は私に何かを伝えようとし
ている。私は近くのカフェの店員を呼び止め、通訳をお願いした。色黒ドレッ
ドサングラスの店員は、気怖じせず話す少年の言葉を聞き、私にこう伝えた。
「彼はあなたを家に招待し、両親に会わせようとしている」


それからものの五分後。私は宿の入り口でアハムッドと握手をして別れた。私
には大して重要でもない予定があったのだ。時間には限りがあり、その中で効
率的に動こうとして私たちは先のことを定めてしまう。意思の疎通をするにも、
その前に言語の習得が不可欠だと考えている。

子供はその点において自由だ。要求、認識、反射、そのすべてが“今”の中で
完結している。過去に蓄積することも、未来を見通すことも必要としていない
からこそ、現在への集中力がある。


後日、アハムッドが宿に私をたずねに来ることは無かった。子供には過ぎたこ
とをかえりみる暇なんてないのだ。アハムッドは今日もそこらで今を見つめて
いるのだろう。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◇テーブルの調味料

 ▽エジプトの飯屋のテーブルの上
 http://www.i-yan.com/travel/vol61/chomi070115.html


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

※ジャンクフードから伝統料理、怪しい缶詰や調味料に至るまで、
 世界各国の食べ物の情報をお寄せ下さい。大概のものは口に入れて
 レポートいたします。  宛て先はこちらまで→ myugo60@hotmail.com

※本メールマガジンの文章を転載・転送する際には、部分引用ではなく
 極力全文をご利用下さい。その際、事後でも構いませんのでご連絡を
 いただければ幸いです。また、商用での利用はご連絡下さい。

※本メールマガジンの内容には細心の注意を払ってはおりますが
 その正確性を保障するものではありません。

┏━━…━━━…━━━…━━─…───…─
┃   旅の最中のよい香り
│      発行者:いいやん

  ■配信先アドレスの登録・変更・停止
    http://www.i-yan.com/travel/index.html
  ■インターネットの本屋さん『まぐまぐ』
    http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000152679)

└──      ━━…━━━…━━━…━━━…━

Copyright © 2013 i-yan.com All Rights Reserved.