旅の最中のよい香りindex


┏━━…━━━…━━━…━━─…───…─
┃   旅の最中のよい香り Vol.062
│     2006/02/06 http://www.i-yan.com/
└──      ━━…━━━…━━━…━━━…━
 ○私は今ここにいます : エジプト=アラブ共和国 カイロ

マルハバ、いいやんです。エジプトの主都カイロにいます。カイロも冬は寒い。
陽が沈んでからはコートも羽織らずには町へ出られません。

5000年の歴史と共に作り上げられた町カイロは混沌としています。ショーウィ
ンドウが並ぶ広々とした道路があり、地下鉄があり、人々がヤギやロバと暮ら
すスラムがあり、オペラハウスがあり、一帯の道々が露店で埋めつくされた市
場があり、エジプト料理のチェーン店があり、イスラム世界の建築物が凜と立
ち並び…。

雑居ビルの屋上にあるバラック住居。集合住宅の窓から吊された大量の衣類。
紅茶と水タバコをのみながら昼から夜からゲームに興じる男たち。絶え間無く
流れ続ける自動車。それに交じってたまに馬車。コンビニは無くともパン屋も
果物屋も惣菜屋も商店も、眠らない街よろしく朝から深夜まで営業し続けてい
ます。

 ▽カイロの風景
 http://www.i-yan.com/travel/vol62/cairo.html


──今号のもくじ──

  ■沈没船レックダイブ
 ◆連載:ボイスレコーダーリプレイ
  ■エジプト町歩きつれづれ
 ◆連載:テーブルの調味料


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

□沈没船レックダイブ

海上に浮かぶボートから海底に向けて伸びるロープを右手ににぎりしめたまま、
フゥゥウ──っと息を吐き切り頭まで海水につかる。2mほど沈み込んで大き
く息を吸い、1秒間静止する。左手で鼻をつまみ耳抜きをする。またあらため
て息を吐き出し、自分の足ひれとその下に続く青い世界を見つめながらゆっく
りと潜行する。

この沈み行く過程が、スキューバダイビングにおいて最も静かで大きな興奮を
生む時だ。

やがて下方の深い青の中に目標物が青白く浮かんできた。大きくて全体像がつ
かみづらい。ロープから手を放し、水平方向へただよい、そこからまた垂直方
向へ潜行していくと、船の側面の大きくカーブした一枚板がわかった。そのま
ま海底の砂地へフィンの先で着地。深度は30m。

ガイドが先導する計7名のチームで、外周を半周ぐるりとまわってから側面を
垂直にのぼり甲板へ向かう。船の全長は110mあるそうだ。船の大きさに対し
目に入る範囲はあまりに狭く、自分が船のどこらへんにいるかつかめない。空
気残量が70気圧(840リットル)まで減ったことをガイドに申告すると、
「浮上する」とのサインが返ってきて水面へと連行された…1本目のダイブは
はしゃぎすぎエア食いすぎで終了。


2本目のダイブは内部へと潜入する。2つの層といくつもの船室に分けられた
船内には車両の残骸が積もり、ひんまがった鉄骨がむき出しだ。それらは海洋
微生物の細胞やその死骸にうっすら覆われ、形も色もくすんでいる。暗がりを
照らせば、そこには魚群が侵入者から身を隠すように遠まきに広がっている。

狭い通用口を通り、上下吹き抜けの空間をただよい、再び暗い船室を抜け、ゆっ
くりとしたペースで船の先端へとたどり着いた。ここが、砂地に斜め気味に鎮
座する船のてっぺんだ。黄・青・白・黒・紫・橙…様々な色と模様の魚たちが
浮揚しており、秋刀魚に似たバラクーダの群れが濁流のように側面下方から湧
き上がり目の前を抜けてゆく。

そこからは船の上空スレスレを飛ぶようにして中腹に据えられたロープを目指
す。高度を下げ、屋根と柵のある外廊下を泳いで抜け、その先で空気残量の確
認。40気圧のレッドゾーン。ロープをたぐりながら上昇し、水深5mで減圧の
ため3分間の安全停止をする。ガイドのタンクから空気を分けてもらいつつ、
残圧20気圧で2本目終了。


ボートに登り、機材をかたづけ、着替えてソファへと座る。ボートの揺れと疲
労と軽い窒素酔いとが重なり合って、二日酔いの朝のような虚脱感に襲われな
がら考えたことは、海が持っている世界観のこと。そこはあらゆる生き物のルー
ツだというが、ヒトの生きる世界はそこからあまりに遠い。

現世から沈んでいった一隻の船の姿は、海上に浮かぶ船を連想させることは無
かった。船は、海中の別世界に完全に取り込まれた元船として、悠久の時の流
れの中にただ静かに身を置いていた。


 ▽沈没船レックダイブの模様
 http://www.i-yan.com/travel/vol62/diving.html


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◇ボイスレコーダーリプレイ

ダハブで泊まっていた宿である日、スタッフの誕生日のパーティーが開かれた。

 ▽エジプト流の誕生会パーティー
 http://www.i-yan.com/travel/vol62/birthday.html


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

□エジプト町歩きつれづれ

「俺の名前を覚えてるか?」
宿から歩き出してすぐ、一人の男に話しかけられた。たしか数日前にあいさつ
を交わしたけれど、名前まで覚えてない…
「えーと………ムハンマド」
「おお覚えてたか!すまんがお前の名前をもう一度教えてくれ!」
当たったよオイ。しかも俺の名前忘れてんのかよムハンマド。


それから肉屋の前を通りかかる。

一匹の猫が、肉が陳列されたショーケースと壁との隙間にソーっと入ってゆく。
視線を横に動かしてみると、店主はただ暇そうに私の顔を無感動に見ている。
猫は店主に気付かれず店内に潜入できたらしい。

猫は入っていった隙間からすぐに顔をにょきっと出した。どうやら肉の切れ端
は落ちていなかったらしい。猫はハッと顔を上げ、私がじっと見ていることに
今はじめて気付いた様子だ。眼は明らかに動揺している。
『こっそり餌場チェックしてすごすご帰る一部始終を見られてたっすー…』
猫なりに恥ずかしそうなその顔に思わず噴き出しそうになる。


そして歩いていると、カフェの客引きが声をかけてくる。
「100%ディスカウント、フォーユー」
絶対嘘だ。エジプシャンジョークだとしても豪快すぎる。


それからフレッシュジュース屋の前を通りかかる。

怒鳴り声だか叫び声だかが、店内に飛び交っている。怪訝に思い店先から中を
見ると、カウンターに店員が二人、客が二人、手に持ったサトウキビを刀に見
立てて大騒ぎしている。おい…大人だろ…。


そして歩いていると、土産物屋の店員が声をかけてくる。
「1グラム2ポンド」
なんだよ、気になるじゃねーか。


それからなんとなく物々しい雰囲気の建物の脇を通りかかる。

二階ほどの高さの切り立った壁のような建物の屋上に金網の柵があり、警備員
の監視所が約10mおきにある。監視所にはそれぞれ二名の警備員がおり、何を
するでもなくそこにいる。

金網の内側に何があるのか下からは見えない。見上げながら歩いていると視界
に何かが迫ってきて、私の近くに落ちて弾んだ。ゴムボールだ。上から落ちて
きたようだが…。道端には家族らしき数名が建物を見上げて立っている。黒い
布で頭を覆ったおっかさんが大声で上にいる誰かに向けて話しかけている。んー
ひょっとするとここは少年院的な施設で、屋上に運動場でもあるのではないだ
ろうか。

柵の金網の一つに大きな穴が開いている。そこに警備員の一人が背中を丸めて
スッポリ納まり、窮屈な姿勢のままハンモックのようにギシギシと体を揺らし
て遊んでいる。他の警備員は特にリアクションしていない。楽な仕事だ。


そして歩いていると、タクシーの運転手が声をかけてくる。
「タクシー or バクシーシ」
客として乗るか、もしくは金を恵んでくれって?


その土地独特の人の性質というのは、ガイドブックに紹介することができない
一番の見所だと思う。町を歩くその理由はもちろんエジプトならではの経験が
したいからだが、エジプト人はその期待を決して裏切ることなく、その濃ゆい
笑顔と口から出任せの言葉を交えながら新鮮な驚きをもたらしてくれる。

私は声を大にして言いたい。エジプト人はあほうだ、と。もちろん褒め言葉だ。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

◇テーブルの調味料

 ▽エジプトのコシャリ屋のテーブルの上
 http://www.i-yan.com/travel/vol62/chomi070206.html


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

※ジャンクフードから伝統料理、怪しい缶詰や調味料に至るまで、
 世界各国の食べ物の情報をお寄せ下さい。大概のものは口に入れて
 レポートいたします。  宛て先はこちらまで→ myugo60@hotmail.com

※本メールマガジンの文章を転載・転送する際には、部分引用ではなく
 極力全文をご利用下さい。その際、事後でも構いませんのでご連絡を
 いただければ幸いです。また、商用での利用はご連絡下さい。

※本メールマガジンの内容には細心の注意を払ってはおりますが
 その正確性を保障するものではありません。

┏━━…━━━…━━━…━━─…───…─
┃   旅の最中のよい香り
│      発行者:いいやん

  ■配信先アドレスの登録・変更・停止
    http://www.i-yan.com/travel/index.html
  ■インターネットの本屋さん『まぐまぐ』
    http://www.mag2.com/ (マガジンID: 0000152679)

└──      ━━…━━━…━━━…━━━…━

Copyright © 2013 i-yan.com All Rights Reserved.