旅の最中のよい香りindex


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┃   旅の最中のよい香り Vol.069
│     2007/05/23 http://www.i-yan.com/
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 ○私は今ここにいます : イタリア共和国 ヴェネト州 ヴェネツィア県 ヴェネツィア

ブオンジョ〜ルノ、いいやんです。

ソレントからずいぶん北上してボロネーゼ(ミートソース)で有名なボローニャ
へ。そしてそこからここヴェネツィアまでは列車で2時間の距離でした。

学生の街ボローニャでは多くの若者たちがシェアルームで共同生活を送ってい
ます。私は幸運にもそこのひとつに転がり込んで、キッチンで自炊をするかた
わら昼は学食で安いご飯にありついていました。一方、ヴェネツィアでは安宿
の天才ことタイ人の経営する朝食・キッチン・ネット付き一泊20ユーロの宿を
見つけることができました。

ヨーロッパ旅行でかかる衣食住の費用は、今までとは比べ物にならぬ死活問題
です。キッチンを確保し、一袋40セントのパスタと一瓶50セントのトマトソー
スを基本に節約食を組み立てる日々です。幸いにも非常に美味なので助かります。

──今号のもくじ──

  ■夜歩きヴェネツィア
 ◆連載:ボイスレコーダーリプレイ 高音質版
  ■フェイスマークのあるボローニャの風景
 ◆連載:テーブルの調味料


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□夜歩きヴェネツィア

六年前の三月、初めての海外旅行で初めて訪れた都市がここヴェネツィアだっ
た。ツアー旅行の自由時間にひとりで歩き回るのに夢中になり、集合時刻に間
に合わず勝手にタクシーでホテルまで帰ってしまい、同行した友人らには初日
から心配と迷惑をかけたのだった。

あのとき、陽が落ちたあとのヴェネツィアの、暗い路地にてんてんと街灯がと
もり、ちらほらと人が行き交っては壁の影に消えてゆく光景は、記憶の中に幻
想的に残っている。


そして今、その続きをするかのように夕暮れの街へ散歩に出かけた。

 ▽ジャランジャラン・夜のヴェネツィア
 http://www.i-yan.com/travel/vol69/venezia.html

ベネツィアはひとつの島と思われがちだが、実は運河に区切られた大小様々の
角ばった島々がパズルのように組み合わさっている。家々は隙間無く高くそび
え立ち、その周囲を細い歩道と運河が縫うように交錯している。

島を貫くように縦横無尽に走る運河と対称的に、石畳の歩道は枝分かれして細
くなり、直角に曲がり広場を抜けたかと思えば袋小路に突き当たる。運河を越
える橋は街中に無数にあるけれど、運河に囲まれて半島のようになっていて徒
歩では進めなくなってしまうつくりはあちこちに見られる。


夜九時。街の電灯が一斉にともった。まだ空は薄明るいが、徐々に青は深くな
る。水路を行くボートはほとんど姿を消し、水面は静かに揺らいで景色をよく
うつしている。昼間、天に昇っていた湿気が今は地上にとどまり空気と混じり合う。

細い路地の左右は高い外壁。耳をすますと、静寂の中、どこかの窓からカチャ
リ、キンッ、と食器の触れ合う音が小さく聞こえる。聞き慣れた走行音も虫の
声も風になびく葉音もしない。

静かだ。本当に静かだ。

ここにあるのは海水と空気と少しの木材と、造形美をたたえた大量の石材だ。
穏やかな海以外の一切の自然を排除した空間に、巨大な教会と情緒ある古い家々
と水路と橋と舟とが織り成す独特の風景。ヴェネツィアはその島そのものが、
巨大な美術作品として完成しているのだと感じさせられた。


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◇ボイスレコーダーリプレイ 高音質版

ボローニャで出会ったアンドレアのシェアメイト、エマが参加しているコーラ
スグループはまるで人種のるつぼ。欧州各国やアメリカ、アフリカからの老若
男女50余名による声が混じる懐の深い合唱だ。

毎週火・木曜にあるその練習に飛び入り参加させてもらった。会う人会う人、
「チャオ」と言い右手を差し出し名前を教えてくれる。発声練習が終わり曲目
の練習に入るとどこからか楽譜がまわってくる。よそよそしさが微塵も無いそ
の態度に脱帽だ。

 ▽コーラスグループの練習
 http://www.i-yan.com/travel/vol69/voicelesson.html

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□フェイスマークのあるボローニャの風景

それを休日の閉まったスーパーの店先で初めて見つけた時、何か正体不明のた
だならぬものを感じた。大きく、シンプルに、手慣れたタッチで惑い無く描か
れながらも、何らメッセージ性が感じられないその顔は、そっくり同じ物が2つ、
ウィンドウを挟んだ2本の柱に描かれていた。

ボローニャの中心地にはいくつもの大学の建物が集中する一画がある。多くの
学生たちが行き交い、無数の貼り紙が掲示板を埋める中、少数の観光客が歴史
ある校舎や教会群を巡るという不思議な光景がある。

そこでまた私は、壁に描かれたそれに出くわした。初めに見た場所と3kmは
離れているというのに、同じような大きさとバランスで描かれた同じ顔。それ
は、この顔がその場の思いつきで描かれたものではないことを意味していた。


ボローニャに4年間住んでいる25歳の学生ルカに聞いてみた。

「これか…これはきっとな、これを描いてまわってるグループがいるんだよ。
 もしどこかにこれが描かれていたら、それは彼らがそこにいた“証”なんだ。
 …そういう生き方もあるってことかな」

具体的な意味は何も無い。それは誰かにただ描かれ続け、消されたり上塗りさ
れたりしながらも、町のあちこちに現れ続ける。


現在その顔は、学生にとってのメインストリート、ザンボニ通りを中心に半径
5kmほどの広い範囲で500個以上は存在している。これを描いていたのは初
めは特定のグループだったのかも知れないが、既に不特定多数の人間が参加し
ていると考えて良さそうだ。

それを描いている人間にとっては、どこかでそれを見つけると
 『自分以外のこれを描く誰かがここにいたのだ』
という感慨深さがあるのかも知れない。その感覚はきっと今後もそれを描き続
ける意欲につながるだろう。

日本とは比べ物にならない規模で繰り広げられている落書き文化の中で生まれ
たこの不思議な現象は、とりたてて迷惑でも役に立つわけでもなくただただ進
行し、やってるやつら全員が飽きるまでいつまでも受け継がれてゆく。

 ▽そいつのいるボローニャの風景
 http://www.i-yan.com/travel/vol69/face.html


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22歳の学生アンドレアはこの写真を見てこう言った。

「俺、これ描き初めた奴、知ってるよ! 知り合いなんだ。
 俺は全部そいつが描いてると思うけど……うん、フツーの奴じゃないよそいつ」

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◇テーブルの調味料

 ▽イタリアのトラットリアのテーブルの上
 http://www.i-yan.com/travel/vol69/chomi070523.html


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